PlatonicFigureのキャンペーンシナリオ 背景 歴史にその名を刻む「次元門大戦」。それは、空間を捻じ曲げ魔界と人間界に自由に出入りできる門、即ち「次元門」を作成し、人間界に大軍を送り込んできた魔族とそれに対抗する人間達との戦いであった。 結果は、人間側の辛勝であったといわざるを得なかった。 人類は人口の殆どを失いつつも、12人の強大な魔導師の力により何とか次元門の封印に成功するが、大地は荒れ果て、魔族の残党が未だにはびこっていた。 しかし、この大戦により急激に進歩した魔道文化は、ついに生き残った魔族をも制御しうるものとなっており、魔族を自然の力に封印することで次第に世界は復興しつつあった。 それから、数世紀。人類はかつての力を取り戻したかのように思われた。 だが、魔族の反撃の種はすでに蒔かれていたのだった……。 「次元門」。かつての大戦の引金となった門。今は伝説上のものとなってしまい、誰もがその存在さえも忘れてしまったが、12魔導師の子孫達だけは今も門と魔族の動きを監視しているという……。   第1話 街道にて……  森の暗がりは木漏れ日で次第に消えていき、しまいには辺り一面を眩しい陽光が覆う。  メルニカ山地の麓にある大きな森林地帯、通称「魔女の森」を抜け、主人公と魔女「サーラ」は、パルザスの街に向かう街道に出る。 サーラ「ふぅ、疲れましたわ。こんなに歩いたのは久しぶりです」 主人公「師匠、休憩にしますか?」 サーラ「……そうしましょう。それに、丁度お昼です。お腹もすいたでしょう?」 俺とサーラが出会ったのはほんの数週間前のことだった。 ある雨の日、メルニカ山地の渓谷で気絶して倒れていた俺をサーラが助けてくれたというのが出会いだった。俺にとってサーラは命の恩人であった。 それから、俺はサーラのおかげで体力は快方に向かったのだが、それ以前の記憶は未だに戻っていない。 とはいえ、何もしないわけにはいかないので、記憶が戻るまでという条件付きで、サーラの手伝いをすることになった。森に独りで住むサーラにとっては有り難いことであったらしい。 数日して、サーラは魔法の使い方を俺に教えてくれるようになった。どうしてそんなことになったのかは忘れたが、何はともあれ、俺は彼女の教えによってすぐに魔法が使えるようになった。その時から、彼女を「師匠」と呼んでいる。因みに、師匠が言うには、「こんなに筋のいい人は滅多にいません。実は魔法使いだったのでは?」ということなのだが、残念ながら思い出せない……。 サーラ「ごっ、ご飯、おいしくないですか? なんだか険しい顔付きですよぉ。」 不意に師匠に声をかけられる。俺はそんなに不機嫌な顔をしていたのだろうか? だがそういえば事実、食事は干物と薬草スープが主なので、あまり美味しいとはいえない……。 主人公「いっ、いやっ、そういうわけじゃあないんだ。考え事をしていたんだ」 サーラ「……記憶のことだったら、慌てる必要はありません。無理せずゆっくりと思い出していけばいいんですよ」 主人公「えぇ、その通りなんですけどね」 サーラ「……?」 師匠はこれでも「12魔導師」の末裔なのだそうだ。おそらく凄いのだろうが、良くも悪くもいまいちその凄さが伝わってこない。これから俺達が会いに行くパルザスの魔導師テューラもこんな感じなのだろうか。もしそうだとしたら、果たして師匠の求める「緩やかな滅び」の原因を突き止めることが出来るのだろうか……かなり心配だ。 しかしそれにしても、「緩やかな滅び」って一体何なのだろうかと思う。 師匠が言うには、「精霊を鎮める12魔導師の子孫達の力がだんだんと弱くなっていて、世界のバランスが緩やかに、そして確実に崩れているんです。でも、ただ12魔導師の血が薄れて力が弱くなったということだけではないみたい……何でかなぁ?」ということなのだそうだ。 世界は滅びようとしているらしい。あまり実感は湧かないが、とりあえず記憶が戻るまでは師匠の側にいるのも悪くないとは思う。例え世界が滅びようとしていなくても、物騒な世の中なのだ。例えば、盗賊が出るとか……だ。 盗賊「おいっ、おまえら! 金目のものをおいてきな!」 主人公「……やっぱり、出たか」 サーラ「薬草と干物とはした金でよければどうぞ、お持ちください」 盗賊「おっ、おう。気前がいいな。あと、姉ちゃん、あんたも一緒に来な!!」 サーラ「えっ!? 私もですか!? それは、困ります。私、パルザスの街に用事があるんです。」 盗賊「おまえらの用事なんか知るかぁ!! ふざけんなぁ!!」 主人公「ふざけてんのはどっちだ!!」  盗賊「むむぅ、野郎ども!! やっちまえ!!」 戦闘1 盗賊(斧)LV3 5 盗賊(弓)LV5 3 盗賊(弓)LV8 1 勝利条件 盗賊LV8(弓)を倒す 敗北条件 主人公とサーラの二人共、倒される 戦闘1 勝利 盗賊「強いっ、こいつ……おっ、思い出した。まっ、まさか、おまえ……噂の森の魔女かぁ!? 森に迷い込んだ旅人を煮殺して食べるという恐怖の……こっ、今回は見逃してやるぅ! だっ、だから、たったた助けてくれぇ!! ぎゃぁー!!」 盗賊達は一目散に逃げ出していった……。 主人公「師匠、人間、食べるんですか?」 サーラ「食べません」 主人公「それにしても、ヒドイいわれようだなぁ」 サーラ「そんな噂でも流しておかないと、女性の一人暮らしはできません」 主人公「そういうもんですかねぇ、違うような気がする」 サーラ「でも、ここまで効果があるのも何か嫌ですねぇ」 休憩を取り直してから、二人はパルザスの街に向かう街道をトボトボと歩き始める。 戦闘1 敗北(ゲームオーバー1) 主人公「そっ、そんなぁ……こんなところで……。」 薄れ行く意識の中、自分は一体何者だったのだろうかと考えてみる。だが、今記憶を取り戻したところで何になるのだろうと思った途端、どうでも良くなってくる。だんだんと何もかもが白く濁って見えてくる……もう、助からないのだろう。そして、プツッと線が切れるような音を感じた瞬間、真っ暗に……いや、何も見えなくなる。死ぬってこんなものか……。 第2話 ラプ河の死闘 盗賊達に襲われた日から2日経って、二人はパルザスの街に到着した。パルザスの街は、シェルスティア王国の内陸辺境にあるメルニカ山地と大河ラプ河に挟まれた地方都市で、古くから良質の鉄を産する都市として有名である。また、ラプ河を利用した運河もあり、この地方の貿易の要衝として今もなお栄えている。それゆえ当然のごとく、様々な著名人もここに集まるのである。魔導師テューラもそんな中の一人であるらしい。だが、記憶喪失の俺、世間知らずの師匠がテューラのことを良く知っている訳はなく、噂にきく高名な魔術師なら何か情報を掴んでいるはずいう程度でしかない。無論、突然に訪問をするのではなく、予め手紙を送ってはいたのだが。 サーラ「やぁっ、やっと着きましたねぇ。早速、テューラさんの所に行きましょうか」 主人公「家、知っているんですか?」 サーラ「有名な方ですから、その辺を歩いている人に聞けばすぐですよ」 主人公「もしかして、手紙の宛先は……」 サーラ「もちろん、『パルザスの魔導師テューラ様へ、メルニカの森の魔女サーラより』と書いておきましたよ」 主人公「じゃあ、届いたかどうかは分からないんだ」 サーラ「きっと、大丈夫ですよぉ……あっ、あのおじさんに聞きましょう」 というと師匠は、小太りの中年男性に小走りで近づき、道を尋ねに行ってしまった。一言あれば俺が行くのに……と思いつつ、近くの木陰に身を寄せ待つことにする。だが、間を置かずに師匠は「えっ」と声をあげ、手短に話しを切り上げこっちに急いで戻ってくる。 サーラ「大変です! テューラさんが、大変です!」 主人公「どういう事なんですか、師匠!?」 サーラ「3日前、テューラさんの屋敷で爆発事故があって、テューラさんが亡くなられてしまったのです!! 何てことでしょう!!」 主人公「師匠、とりあえず、屋敷に行こう」 テューラの屋敷はパルザスの街外れにある古びた大きな屋敷だった。だが、屋敷の一部が見事に吹っ飛んでいる。本当はもうちょっと大きかったのだろう。 主人公「一体、どうしたらこんなになるのだろう。魔法の実験失敗とかですかね」 サーラ「いいえ、こんな街中で魔法実験はしませんよ、何が起きるか分かりませんから」 とりあえず、屋敷の住人に話を聞いてみることにするとすぐに、テューラの執事セバスと名乗る初老の男性に出会う。 セバス「で、何の御用でございますか?」 サーラ「私、サーラと申しまして、テューラ様に内密のお話があり、先日そちらにお手紙を差し上げた者です」 セバス「何と、あなたが『森の魔女サーラ』様でありますか。 私、もっとお年を召された方かと思っておりました。ああ、それはともかく、旦那様よりあなた様へこれを渡すようにと言付かっております。どうぞ、お持ちください」 サーラ「これは、一体?」 セバス「私には、さっぱり分かりませんが、恐らく旦那様が研究していた事について書かれている巻き物なのかもしれませんね」 セバスから渡されたものは、一本の巻き物であった。 サーラ「……ありがとうございます。残念ながら、テューラ様とお会いすることは出来ませんでしたが、来た甲斐はありました」 主人公「ところで、例の爆発は本当に事故だったんですか?」 セバス「残念ながらはっきりしておりません。旦那様は、以前、魔法研究を王都シャトラナザムにある魔法研究所で行っておりました。が、お年を召されてからは保養の為に生まれ故郷のこちらにいらしていたのです。とはいえ、ここにも多少なりとも研究施設があったのは確かなので、事故であるということになってしまいました。確証はないのですが……」 サーラ「そうですか……、テューラ様のことは不幸としか言いようがありませんが、私どもはこれで失礼しようと思います」 セバス「……ところで、サーラ様。遠路遥々パルザスに来られたのでお疲れではありませんか? 日も落ちかけているようですし、もしよろしければ、今日はこちらにお泊りになってはどうでしょう。これも何かの縁でしょうから」 サーラ「そっ、そうですか……では、お言葉に甘えます」 というわけで、テューラの屋敷に泊まることになった。研究室は跡形もなくなくなっているので、屋敷自体はある意味普通の屋敷になっている。俺は師匠とは別の部屋に案内された。当り前といえば当り前なのだが、今のところ、俺の記憶の全ては師匠と共にあったから、師匠と離れるということに何となく妙な寂しさを感じてしまった。とはいえ、隣の部屋だけど……。 主人公「俺は、一体何者なんだろう……」 一人になると、こればかりに考えが行く。師匠と出会う前の俺、険しい山の中でなぜ倒れていたのだろう……分からない。もう、考えるのはよそうと思う。思い出すときはきっと来る。そう信じるだけで今は充分なのかもしれない。 主人公「……あっ、さっきの巻き物」 そういえば、さっきの巻き物の中身を見ていない。見てみるか……という訳で師匠のいる隣の部屋に行く。 主人公「師匠、さっきの巻き物って何が書いてあるの!?」 サーラ「『次元門』のこと」 主人公「『次元門』? それって何?」 サーラ「つまり、この世界と別の世界を結ぶことの出来る通路みたいなものです。」 主人公「そんなもの作って、どーすんだ?」 サーラ「別の世界から魔物を呼び出して、この世界にその力を封じて活性化しようという事らしいです。結局、テューラ様は『次元門』を作るのには失敗したんですけど」 主人公「じゃあ、その実験に失敗して爆発したのかなぁ」 サーラ「いいえ。『次元門』の研究はかなり前に凍結したそうです」 主人公「ますます、分からなくなった……ところで、『緩やかな滅び』についてはどうなんです?」 サーラ「残念ですが、原因は解らずじまいのようですね」 結局、詳しいことは解らなかった。それにしても「次元門」って何処かで聞いたことがあるような……思い出せない。それどころか頭が痛くなってきた。 サーラ「……あっ、顔色が悪いですよ。もう休んだらどうですか? 明日は早いですよ」 主人公「それじゃあ師匠、そうさせてもらうわ……」 俺は頭を押さえつつ自分の部屋に戻り、フカフカのベッドに潜り込む。頭痛はすぐに治ったが、その後強烈な眠気に襲われる。かなり、疲れていたのかもしれない。今日はぐっすり眠れそうだ。 そして、何事もなく朝が来るのだろう……。 記憶はまだ戻らない。だが、「次元門」という言葉がやけに引っかかる。 また、頭が痛くなってきた……。 ???A「待ってて正解だったのかなぁ?」 ???B「そうだね。こんなに反応があるんだから、きっと大物だろうね」 ???A「手柄一人占め!?」 ???B「いや、報告はキチッとしないと駄目だね」 ???A「炎の連中みたいに焦るなって事?」 ???B「そうだね。あたいらは、目立っちゃいけないからね」 ???A「コソコソ、バッサリ、殺るの?」 ???B「そうだね。人気のない所でこそこそばっさり殺っちゃうね」 ???A「じゃあ、ちょっとの我慢?」 ???B「そうだね。ちょっとの我慢だね」 何か妙な気配を感じたが、それ以外何事もなく朝が来た。おいしい朝食を頂いた後、セバス達に別れを告げ、二人は主を失ったばかりの屋敷を後にする。 主人公「これからどうするんです、師匠?」 サーラ「シャトラナザムの魔法研究所に向かいましょう。何か分かるかも知れません」 師匠は何故「緩やかな滅び」の原因を探ろうとしているのだろう。別に師匠が躍起になって探る必要はなさそうに思えるのだが……。 俺達は運河を利用して船でシャトラナザムへ向かうことにした。これなら、歩いていくより断然早いし、馬車よりも安く安全にたどり着けるだろう。そういう訳で早速船を手配することにした。俺達はうまい具合に、丁度今日シャトラナザムに向かう小さな交易用の帆船に乗り込むことが出来た。この船は、2日目にラプ河の河口付近にあるファージェの街で補給をして、海路経由でシャトラナザムに計5日程度の日程で向かう予定だ。 船に乗ってからしばらく時間が経っただろうか。俺と師匠は離れ行くパルザスの街を見ていたが、街はもう点になってしまっていた。 サーラ「船に乗るのは初めてです」 主人公「俺は初めてなんだろうか……」 サーラ「……」 別に悪気はないのだが、ボソッと言ってしまった。二人は、黙って悠久なる大河を見つめるより他に出来ることがなくなってしまった。何だか、気まずい感じがした。 と、ふと周りを見渡すと、この帆船より小さな小船数隻が周りを取り囲んでいることに気づく。船乗りの一人が「海賊だぁ!」と声を上げる。そして、取り囲んでいる小船からフック付きのロープが投げつけられ、身軽な格好をした男達が帆船に乗り込んでくる。 海賊「この船は今から俺らのもんだぁ! ガハハ!」 船員「ひいぃっ、助けてくれ!」 船員の幾人かは、河に飛び込んで逃げていき、別の幾人かは曲刀を手に取り海賊達と剣を交えるが、多勢に無勢であった。 ???A「邪魔がはいったね?」 ???B「そうだね。邪魔だね」 ???A「どうするの?」 ???B「慌てずに、弱った所を狙うのね」 主人公「くっ、ついてないな!!」 戦闘2 盗賊(斧)LV4 5 盗賊(弓)LV6 4 盗賊(斧)LV10 2 勝利条件 敵全滅 敗北条件 主人公とサーラの二人共、倒される 戦闘2 敗北 戦闘1敗北と同じ 戦闘2 勝利 主人公「ふぅ、何とか勝った。師匠、大丈夫ですか!?」 サーラ「えぇ、心配ありません」 というのも束の間。船員の一人が大声を上げる。 船員「なんだ、あれは!!巨大なタコかぁ!!ぶっ、ぶつかるぅ!!」 帆船はよけきれず、巨大なタコにぶつかり、前部が大破してしまう。その衝撃で船員達も俺達も全員河に投げ出される。俺は、何とか海賊の小船のロープを掴むことが出来た。が、師匠は気を失っているのか、そのまま河に流されている。俺は慌ててフック付きのロープを投げつけたが、うまい具合に師匠の上着の肩紐に引っ掛かる。急いで師匠を手繰り寄せ、海賊の小船に乗り込む。 主人公「師匠!! しっかりしろって!!」 サーラ「うーん。だ、大丈夫ですぅ。いたたっ……何処か、ぶつけたみたいです」  主人公「無理すんな、じっとしてなよ」 サーラ「で、でも……」 というと、師匠は気絶した。打ち所が悪かったようだ。 シルフA「殺ったかな?」 シルフB「どうですかね。確認しないとね」 シルフA「でも、動かないみたいだよね?」 シルフB「そうですね。でも、まだ反応があるようね」 シルフA「総攻撃、総攻撃!?」 シルフB「そうですね。そうしますかね」 主人公「何!? 魔物に囲まれている!? ちっ、戦うしかないのか!?」 サーラ「わ、私もがんばります!」 主人公「師匠、気絶してたんじゃ……」 戦闘3 シルフLV7 3 ロックLV7 3 アンモナイトLV7 3 クラーケンLV7 1 シルフLV10 2 勝利条件 敵全滅 敗北条件 主人公、倒される 戦闘3 敗北 戦闘1敗北と同じ 戦闘3 勝利 主人公「勝ったには、勝ったが……ちょっと、これでは海路を行くことは出来ないな。それ以前に、師匠の具合も悪そうだしなぁ……ファージェの街まで歩いていくかなぁ」 サーラ「へにゃぁー」 主人公「師匠、少し、船酔いも入っているんじゃ……」 俺は、海賊の小船を陸に寄せ、既にへろへろになっている師匠を抱きかかえ、砂浜の平らになっている所まで運んだ。 ここで少し休んでから、ファージェの街まで歩いて行こう。 第3話 憎しみの森 疲労の激しい俺達は、ラプ河のほとりで休んでいる。どちらかといえば元気である俺は薪を集めて暖を取る準備をする。師匠はさっきまでブルブル震えていたが、今はスヤスヤと寝息を立てて眠っている。 俺は、出来る限り師匠の側に木をくべる。そして、ずぶ濡れの衣服を乾かす。ついでにあったかい薬草スープでも作るかって、荷物全部流されているじゃないか……。仕方ないので、魚を捕ることにした。海賊の小船に網があったのは幸運というべきだろう。 かなり苦戦したが、何とか食べられそうな魚を数匹捕まえた。勿論、焼いて食べるしかない。塩がないのでかなり味気なさそうだが、香ばしい匂いが辺りを漂い始める。 サーラ「……いい匂い」 主人公「ん? あぁ、大丈夫なんですか、師匠?」 サーラ「ええ、大丈夫です、多分」 主人公「良かった、良かった……って、あんまり良くないか、こんな状況じゃ」 サーラ「命があるだけでも幸運ですよ」 この後しばらくして、焚き火の煙が街道を通った隊商に見えたらしく、運良くファージェの街まで送ってもらうことになった。 商人「へぇ、あんたら、シャトラナザムに行くつもりなのかい。しかし、うちらはファージェとパルザスを行ったり来たりなんで、悪いがそこまでの縁ということになる」 サーラ「それでも十分です。運が悪かったら、歩いていくところでしたから」 商人「はっはっはっ、じゃあ、運が良かったって言うのかい!? 船が沈むってのは十分運が悪いんじゃねえのか!? 面白いことを言うお嬢さんだね!」 サーラ「そうですか」 商人「あっ、そういやぁ、シャトラナザムへは確か近道があったはずだ。普通、海岸沿いの街道を使うんだろうが、敢えて森林と荒野を抜けて最短距離を行くっていうやつ」 サーラ「そんな道があるんですか!?」 商人「あぁ、あるある。しかし、かなりの悪路で魔物も出るってもっぱらの噂だがね。だが、歩いていくんだったらこれより早い道はない」 主人公「魔物?」 商人「おぅ、顔色の悪いあんちゃん、寝てたんじゃないのか? その魔物ってのは、なんでも、木の化け物って噂だ。でも、まあ、森だから見間違えたんじゃないかと思うがね。あくまで噂だよ噂」 次の日の朝、無事にファージェの街に着いた。別れ際、隊商の長である商人に呼び止められる。 商人「それにしても、あんたら、不幸だねぇ。ん〜、これも何かの縁。取っておきなさい。幸運の印だよ」 なんと、数十枚の銀貨の入った袋を貰った。この隊商はまさに幸運の使者なのかもしれないと思った。 気の良い隊商に言い切れない程の礼を言い、ひとまず街の中央広場で休むことにする。 主人公「……近道するんですか?」 サーラ「ええ。海沿いを行くより近いということですしね。しかも、森なら食料に困りません」 主人公「そう言えば、自称『森の魔女』でしたね。俺を食料にしないで下さい」 サーラ「食べません」 そして、隊商から貰った銀貨で宿屋に泊まる。夜は二人とも疲れが出たのか、すぐに寝てしまった。当然、朝が一瞬で来たかのように感じられる。 サーラ「では、出発しましょう。忘れ物はありませんね?」 主人公「落とし物はたくさんありますけど」 サーラ「大事なものは、肌身離さず持っていれば大丈夫です。ほら、こんな感じで」 主人公「それは、例の巻き物じゃないですか! やりますね、師匠」 サーラ「ええ、でも水に濡れてこの有り様です。あの世のテューラ様、ごめんなさい」 主人公「持ってても捨てても呪われそうですね……出発しましょうか」 途中までは海岸沿いの街道を歩いていく。2、3時間程度歩いた所で、北に向かう雑草の生い茂った小さな道が見えてくる。その先には広大な森林が地平線いっぱいに広がっている。何のためらいもなく、俺達は道伝いに森に入っていく。 道自体は、人が通れる程度の幅しかない。だが、噂に聞く程の悪路でもなさそうだ。何時の間にか日は暮れて、夜になる。星だけが輝く闇夜であったが、「魔女の森」での生活に慣れていたので、別段の恐怖を感じることはない。件の化物は、やはり旅人が見間違えただけなのだろうと思った途端、何処からともなく声がする。先に寝ていたはずの師匠は何時の間にか起きている。  主人公「師匠、囲まれているようですね」  サーラ「どうやら、『緩やかな滅び』の影響で、森の精霊達が自我を失っているようですね」 ドリアード「きぃぃぃぃぃっ、人間!」 ノーム「我らの自由、蝕む害虫、人間!」 トレント「禍禍しき血を持つ人よ、我らをこの地に縛りし人よ、積年の恨み、思い知るがいい!」 サーラ「私、恨まれているんですね……」  主人公「師匠、戦うしかないみたいだ!」 サーラ「ええ、仕方ありません」 戦闘4 ノームLV8 7 ドリアードLV8 5 トレントLV10 2 勝利条件 敵全滅 敗北条件 主人公、サーラの二人共倒される。 戦闘4 敗北 戦闘1敗北と同じ 戦闘4 勝利 サーラ「……」 主人公「どうしたんですか?」 サーラ「精霊の声は自然の声。かつて12魔導師がこの世界に彼らを封じたからこそ存在する定理」 主人公「……?」 サーラ「彼らは、私たち人間を……自由を奪った人間を憎んでいるんでしょうか?」 主人公「……憎んでいるのもいるかもしれない。でも、俺らを助けてくれるやつもいる。人間だってそうだろ?」 サーラ「みんな仲良くという様にはいかないんでしょうか……なんだか、悲しいです。そう考えると12魔導師の子孫でなければ良かったと思います」 主人公「師匠、あんまり気にすることはないって。俺なんか未だに誰だか分からないんだぞ」 サーラ「……そうですね」   結局、充分な睡眠は取れなかったが、それでも容赦なく朝は来る。 第4話 絆の水辺 ファージェの森での出来事から3日経った。あの戦いから、精霊達が森の中で襲ってくることはなかったが、常に監視されているようで嫌な感じだった。しかし、今日中にはこの森を抜けられそうな感じではある。なぜなら、木々の合間から見える道の先の方に、マージャフ山が見えているからである。このマージャフ山を越えれば念願のシャトラナザムである。ファージェの隊商の話では、この道はマージャフ山の麓の脇を通っているということなので、道を間違えていることもない。このまま何事もなくたどり着けばいいと願う。 サーラ「……疲れました。休みません?」 主人公「もう少しで、森を抜けられますよ」 サーラ「……」 師匠の必殺技、沈黙の否定だ。 主人公「……分かりました、休みましょう」 サーラ「……喉が渇きました」 主人公「むっ、水筒に水がない……近くに水のある所を探してきますよ」 サーラ「お願いします」   師弟関係とはこんなものだ。そう、俺は弟子なのだ。ああいう師匠なのでついつい忘れがちになってしまう事柄である。 それはさておき、森林の中を駆け回って水を探す。水を作り出す魔法もあるにはあるが、結構疲れるので、歩き回って探すほうが効率的な場合も多々ある。それに、そもそも水があるから木が育つのだ。森林の中で水を探すのは容易なことである。案の定、すぐに水の流れる音と滝の音が聞こえてくる。水筒をブンブン振り回しつつ、音の方向へ近づいていき、生い茂った雑草をかき分けるとそこには滝と川があり、その水辺の岩に腰をかける一人の人、一目で女性と分かる……がいる。幼い顔立ちなので、女性というよりは少女というべきだろうか。びしょびしょの衣服と濡れた暗い赤毛の長髪の少女。彼女はさっきまで水浴びでもしていたんだろうか。それともただ転んだだけなのか。何はともあれ、こんな山奥に人がいるというのは驚きだ。 主人公「あのぉ、もしもし。あなたはこんなところで何をしているんですか!?」 少女「!!!」 俺が声をかけると彼女はひどく驚いたらしく、目を大きく見開いてこっちを見ている。辺り一面を滝の落ちる音と川のせせらぎだけが覆う。しばらくそのままだったが、先に少女が行動を起こした。少女は、脱兎のごとく逃げ出した。 余程、驚かせてしまったらしい。もしかすると彼女は、水浴びの一部始終を見られたと勘違いしたのかもしれない。そう考えれば正しい反応なのかもしれないと呑気な事を考えていたが、すぐにその考えを払拭せざるを得ない状況になった。俺の周囲に魔物達が突如として現われ始めたからだ。さっきの少女が呼び出したのだろうか。だとすると、彼女も12魔導師の子孫なのだろうか。さっさと魔物を片づけて、事情を聞かなければ。 戦闘5 マーメイドLV10 5 ウンディーネLV10 4 アンモナイトLV10 3 勝利条件 敵全滅 敗北条件 主人公、倒される 戦闘5 敗北  主人公「やはり、一人では駄目なのか……まだまだだなぁ……」 俺はふらふらと水辺に倒れ込む。今、俺は死につつある。そのだんだんと意識は薄れていく感覚は、まるで眠りにつく感じに似ている。そのくせ、いろいろと考えることの出来る時間があるのが、妙な所だ。遠慮なくその時間を使わせてもらうことにする。 さて、結局、俺は誰だったのだろう……死ぬ前なんだから、ちょっとぐらい思い出してもいいような気もする。とはいえ、思い出したところでどうなる訳でもないのだ。 さっきの少女は何者なのだろうか。何処かで見たような気もする。もし彼女も12魔導師の子孫だとすれば、師匠の遠い親戚という可能性も有り得る。だから、前に見たことがある印象を受けたのだろう。 そういえば、師匠の家族ってどういう人達だったのだろうか。その手の話はした事はない。 師匠はこれからどうするんだろうか。水を汲みに行って帰らぬ人となった哀れな弟子を捨てて、さっさと魔法研究所にいくのだろうか。それとも、『魔女の森』に戻って大人しく暮らすのだろうか。そもそも、あの師匠が無事に生き残れるのかどうかも怪しい。師匠も死んでしまった場合、あの世でまた出会い、同じような師弟関係を築くというのもありか?  いろいろと疑問が湧いてくるが、結局答えは出ずにこの楽しげなシンキングタイムは終わりを告げる。  眠い、ただそう感じられるだけの時間が過ぎていく……。  突如、何やら暖かいものを感じる。同時に顔に滴る雫のようなものも感じる。誰かが呼ぶ声が聞こえる。聞いたことのある声だ。しかし、俺は無性に眠いのだ。すぐに起きる気はない。いろいろな意味で、疲れたから……。 主人公「……おやっ」 しばらくして、気がつくと、俺は、さっきの水辺に横になっていた。既に魔物の気配はなくなっていている。代わりに親近感の湧く暖かな気配がある。 サーラ「あっ、気づかれましたか」 主人公「……ここが、あの世かぁ。向こうと全く変わらないとは……」 サーラ「??」 主人公「……もしかして、俺生きてる?」 サーラ「ええ、死にかけていましたけど。もう、大丈夫です」 主人公「死に損なったのか……」  サーラ「生きていて、本当に良かったです……」  木々の合間からこぼれ落ちる陽の光は、まるで何事もなかったかのような静寂を保つ水面を橙色に染め上げている。とりあえず、師匠と俺は、ここで休むことに決めた。いろいろと師匠に聞きたいことがあったのだが、疲れが出て俺はすぐに寝てしまった。 戦闘5 勝利 主人公「一人でも何とかなるんだな」 俺は自分の技量を自画自賛する。しかしすぐに慌てて周りを見渡す。さっきの少女はもう、見当たらない。どうやら、逃げられてしまったようである。 主人公「逃げられてしまったのは仕方がないか」 とりあえず、空の水筒に川の水を詰め込み、当初の目的を片づける。水筒の蓋を閉めようとした時、不意に後ろに人の気配を感じたので後ろを振り返ってみると、丁度そこに師匠が茂みをかき分けて近づいてくるところだった。 サーラ「遅いです。何かあったのかと心配しました」 主人公「あっ、師匠、すいません。ここで魔物に襲われてしまったので……」 サーラ「!? 魔物がいたんですか!?」 主人公「ええ、見知らぬ女の子が、魔物を操っていたようなんだ。はっきりとは分かんないけど。もしかすると12魔導師の子孫なのかも……」 サーラ「で、あなたは襲われるようなことをしたんですか?」 主人公「いやっ、ただ、声をかけようとしただけ」 サーラ「よく分かりませんねぇ、どうして襲ってきたのでしょう? 暴走した魔物がたまたまいただけでは?」 主人公「うーん……あっ、そういやぁ、何処となく師匠に似ていたような……そういう親戚とかいるんですか?」 サーラ「……私に家族はいません」 主人公「……」 家族のことに触れようとした途端、師匠はとても悲しそうな表情になる。これ以上、師匠にこの話題を振らないようにしよう。誰にでも聞かれたくないことはある。 そういえば、俺には家族がいるんだろうか。もし会うことが出来れば、すぐに記憶を取り戻せるに違いない。 結局、さっきの出来事の真相は、近くの村に住む娘さんが水遊びをしていて、その娘は不意の進入者に驚いて逃げ、そこにたまたま居合わせた魔物が俺を襲ったということになった。 今日の所は、この水辺で休憩を取ることにする。こんな静かな水辺で時を過ごすのも悪くないと思う。人は自然に憎まれているのかもしれないが、それでも人は自然に恋焦がれる。 第5話 渇いた心 森を抜ければ、マージャフ山だと誰もが思っていた。ファージェの隊商も森林と荒野を抜ければシャトラナザムに着くといっていたはずだ。だが、森を抜けてから一番最初に目にした光景は、何もない荒野、そして荒野の向こうにあるマージャフ山の麓まではあるかなり広そうな砂漠だ。今まで歩いてきた道も砂漠の砂で所々埋もれており、それどころか途中で完全に切れている。周りを見渡しても、同じ光景が広がっている。だが、ここまできて今更引き返す訳には行かない。 主人公「とりあえず、マージャフ山を目指せばなんとかなりそうですね」 サーラ「……そうですね」 無言で何もない砂漠を歩きつづける俺達。雲一つない空に日は高々と昇り、直射日光が容赦なく照りつける。砂嵐をやり過ごしたり、砂に足を取られ坂を転がり落ちたりもした。それでも、なんとか半日ほど歩いた。しかし、一向に周りの風景は変わらない。だが、黙々とひたすら歩く。夜になると今度は極端に寒くなる。昼との温度差が確実に体力を奪うが、それでも歩きつづける。が、やはり変わらない。そんな日が2日は続いただろうか。流石に限界が来た。俺はともかく、師匠は見た目で分かるぐらいにへろへろだ。 主人公「師匠、歩けますか?」 サーラ「……みっ、水!?」 主人公「!? 師匠、どうしたん?」 サーラ「あそこにオアシスがあります!!」 主人公「えっ!? 何処に、そんなものが!? って、師匠、ちょっと、待ったぁ!」 師匠は何処にそんな力が残っていたのか分からない程のスピードで駆け出していく。俺も慌ててその後を追おうとするが、砂に足を取られて思いっきり砂の斜面を転げ落ちる。 その回転が止まってから、俺は砂を払いながらゆっくりと立ち上がる。視界はまだ揺ら揺らしていたが、落ち着くのを待たずに辺りを見回して師匠を探すが……見当たらない。 小高い砂山に駆け上り、辺りを見渡すが、やはり見当たらない。とりあえず、師匠が走っていったと思われる方角にトボトボ歩いていく。未だに視界は揺ら揺らしていて、本当にこの方角であっているかは自信がない。 あれから、少し歩いただろうか。相変わらず目の前に広がる一面の砂漠、それと一向に近づく気配のないマージャフ山。耳に入るのは風が砂と埃を舞いあがらせる音、そしてバシャバシャという水の音……ん?と思った瞬間、またもや俺は砂に足を取られ斜面を転がっていく。 回転を腕で強引に止め、さらに揺ら揺らする視界を落ち着かせようとその場にしゃがむ。少しして水の音のほうを見てみると、そこにはちょっとしたオアシスがあった。緑の草地と木々に囲まれた池がある。そして、池の真ん中でぷかぷかと浮いている人……。 主人公「師匠!」 サーラ「……」 返事がない。ただの屍のようだ……。 俺は慌てて駆け寄っていく。砂埃が舞い、草花が散り、水飛沫があがる。  主人公「師匠! 返事をしてくれよ!」 俺は力のない師匠を抱き上げ、まるで寝ているかのような顔を覗き込む。 師匠は元気のない声で、 サーラ「……もう少し、そのままでいたかったです」 主人公「!?」 サーラ「力を抜くと、人は水の上にプカプカ浮いていられるんです」 主人公「なっ……」 サーラ「気持ちいいんです。このまま……あれっ、何か沈んでません、私達?」  主人公「……!!」 足が既に膝の辺りまで沈んでいた。俺は足を懸命に動かそうともがいてみたが、もがけばもがくほどより沈んでいく。水面がもう口のすぐ下まで来ている。俺は逃げろと師匠に向かって叫ぼうとしたが、既に師匠も足を取られてしまっているようだ。しこたま水を飲んでしまい俺は意識を失う……。水辺は危険だ。もし、これからがあるなら、絶対に近づかないようにしようと思う……。 ……ここは何処だろう。暖かい水の中にいるような感じがする。妙に落ち着く感じもする。ゆっくり目を開けてみると、ただ暗くて何もなさそうな水の中を漂っているということだけが分かる。ここは水の中のはずだが何故か問題なく呼吸が出来る。とりあえず腕を伸ばして何もない暗がりを探るが、すぐに硬い壁のようなものに当たる。それを伝って移動しようとするが、何かが引っかかって思うように動けない……俺は一生、こんなところにいなければならないのか、暗くて何もない水の中に……。 サーラ「あっ、気づかれましたか」 主人公「……ここは」 サーラ「遺跡の中の水溜まりとでもいえばいいのでしょうか」 周りを見渡してみると、石造りの壁に囲まれた水辺としかいいようのない場所だ。天井の方は暗くて良く見えないが、かなり高そうだ。たまに、砂埃や水の雫が天井から落ちてくる。俺達はあんなところから落ちてきたのだろうか、よくもまあ無事だと思った。 それにしても、砂漠の地下にこんな遺跡があろうとは……。 サーラ「出口は何処ですかねぇ」 主人公「水に流れがあるようだから、この方向に行けば良いのかもしれない」 サーラ「そうですね」 俺達は通路に従い歩き始めた。歩き始めてから分かったことだが、この遺跡は何かの研究施設であったらしい。訳の分からない装置やボロボロの本、錆付いた容器などが辺りに散乱していたが、それらからここでどんな実験が行われていたかは具体的には分からない。  師匠は懸命にそれらを調べながら歩いているが、やはり何の成果もなかったようだ。  そんなことをしつつ、3、4時間ぐらい歩いただろうか。休憩するには丁度良さそうな広間に出る。人の身長の2、3倍は有りそうな巨人像達と石柱に囲まれている以外は何もない広間だ。師匠と俺は、大きな石柱を背に腰をおろす。 主人公「師匠、もしかして街道を通ってきたほうが早く着いたんじゃないかな」 サーラ「……そんな気がします」 主人公「でも、ここまで来ちゃったんだから進むしかないんだろうな」 サーラ「……そうでしょうね」  主人公「師匠は、なんでこんなになっても『緩やかな滅び』の原因を探ろうとしているんです?」 サーラ「……」  聞いてはいけないことを聞こうとしているのかもしれない。現に師匠から怒りの感情が感じられる……いや、怒りだけではない。喜び、悲しみ、愛しさ、妬み、蔑み、色々な感情がほとばしっている……周りから。そう、このたくさんの感情は最初から師匠から感じられるものではなかったのだ。  俺達は、何時の間にか動き出し無言で近づいて来た巨人像達に囲まれている。例の感情はこいつらが発していたのだろう。よくよくこいつらを見てみれば、英雄や勇者を模した勇ましい像というよりは、何処となく憎めない感じのする不器用で出来損ないの人間のように見えなくもない。 巨人像「あ、い、し、て、る、ぞ、に、ん、げ、ん」  ある一体の巨人像がそんなことを呟いたように思えた。その巨人像は、師匠のほうに向かっていき両腕で思いっきり抱きしめようとしたらしい。師匠は慌ててそれを軽くジャンプして避ける。 巨人像「う、ら、や、ま、し、い、ぞ、に、ん、げ、ん」  別の一体が丁度着地した師匠めがけて、命中したら確実に頭蓋骨が砕け散りそうなパンチを繰り出すが、それも師匠は軽く体を移動させて避ける。師匠は案外運動神経が良いのかもしれない……と思った瞬間、瓦礫に足をつまづかせる。俺は咄嗟に師匠に飛びつき抱きかかえ、広間を元来た方へと逃げ出す。とはいえ、このまま逃げても埒があかない。俺達はあの狂った巨人像どもを倒して進まなければならない。でないと、ここまで来た意味の全てを失ってしまうかもしれないと感じたからだ。 それにしても、俺は何故あの狂った巨人像どものことがこんなにも分かるのだろうか。 戦闘6 ゴーレムLV1〜15 各1体づつ 計15体 勝利条件 敵全滅 敗北条件 主人公、サーラの二人共倒される。 戦闘6 敗北(ゲームオーバー2) 主人公「くっ、こんなところで……」 薄れ行く意識の中、俺は水の中に漂っているような感じになる。暖かく、落ち着く感じだ。 何とか力を出して目を開けてみるとそこはただの暗闇だった。だがしばらくしてその暗闇に突然光が差し込んできた。どうやらこの向こうに扉があるらしくその光は扉の奥の光のようだ。そしてその扉の光の中から一人の男がその光の中から現れ、近づいてくる。だが、こちらは水の中なので、はっきりと男がどんな人間なのかは分からない。強いて分かることは学者風の老人であるということぐらいか。男は、手の届きそうな所まで近づき、何か呟く。 「これが、我らの「希望」か……」  最後の力を振り絞って、俺はその男に向かって手を伸ばそうとするが、何か透明な壁のようなものに邪魔され触れることが出来ない。何も出来ることがないと俺は悟った。 だんだんと何もかもが白く濁って見えてくる……もう、助からないのだろう。そして、プツッと線が切れるような音を感じた瞬間、真っ暗に……いや、何も見えなくなる。死ぬってこんなものか……。 戦闘6 勝利 無残に散らばった巨人像達の破片。なまじ感情を持っていた為に孤独に耐えられず発狂した巨人像達の破片。周りに仲間がいることに気づかなかった巨人像達の破片。結局一つの固体に宿ることのなかった心のかけら……。 サーラ「……何か、可哀相。私達はここに来ないほうがよかった」  主人公「……いや、そんなことはない。これで良かったんだよ、きっと。彼らは苦しんでいたから……」 彼らが苦しんでいた? それは勝手な考えかもしれない。だが、俺がもし彼らだったらそうなることを望んだだろう。既に自分ではどうにも出来ないのだろうから。 俺は自分が人間であることに感謝する。でも、何処の誰に感謝するんだろう。 第6話 冷たい月  あれから半日ぐらいを遺跡の中を進むことになったが、砂漠を行くより相当楽だ。 水は高い所から低い所へ流れていく。ただそれだけを信じて歩けば地表に出られるはずと俺達は考えている。 しばらく歩くと激しく水の流れ落ちる音が遺跡の通路に響き渡る。遠くに大きな滝があるらしい。地上に出られるかもしれないという期待感を抱く。 その期待は裏切られなかった。俺達は滝のある場所にすぐにたどり着き、滝の脇に上に上っている石造りの螺旋階段を発見する。さらに滝と階段の先はぽっかりと大きな穴があいているのも見つける。恐らく、長い年月を経て川が地表と遺跡の天井を削り取って出来たものだろう。穴の向こうから優しい感じの満月とその光に負けじと輝く星空がこちらを覗いている。何はともあれ、この遺跡で一生を送るということにはならなさそうだ。 俺達は階段を駆け登る。螺旋なので少し目が回りそうだが、それでも駆け登る。 地下の巨大遺跡の造りに比べて地上の建物は入り口とそれを覆うだけの囲いしかない小さなものである。早速外に出て場所を確認してみると、ここはマージャフ山の中腹の辺りであることが分かる。遠くに今まで四苦八苦して進んでいた砂漠が見え、別の方角を見下ろしてみると、山と山の間に薄らと仄かに光る明かりが点々と見える。街の明かりなのだろうか。だとすれば、今までに見たことのない大きな街があることになる。 主人公「あれが、シャトラナザムかな?」 サーラ「だと良いんですけど」 別にシャトラナザムでなくても良かった。俺達以外の人間がいる。ただそれだけのことだけで嬉しかった。そう思ったら、安心したせいか疲れがどっと出てきた。俺は疲れを癒す為に体の全てを地面に委ねる。冷たいが心地よい感触が横になった体に染み渡る。伸びをし、自分の意志でゴロゴロと転げまわる。土と草が静かな月夜の空に舞い散るのが見える。空に浮かぶ丸い月が俺を見つめている。満月は人の目に似ていると思ったその刹那、頭に妙な映像がよぎる。 俺は生暖かい水のなかにいる。周りは仄かな明かりに包まれていて、ぼやけた視界の中に学者のような老人の顔が浮かぶ。俺は手を伸ばす。が透明な壁があるのだろうか、その顔に全く触れることが出来ない。その老人は呟く。 「これが、我らの「希望」か……」 ぼやけていたとはいえ、その表情から確実に感じられたのは、ただただひたすらに冷たいだけの刺すような視線だった。心が締め付けられるように苦しいと感じる。目の前に父さんが居るのに、その父さんは壁越しにどうして赤の他人のように俺に話しかけるの? 「違うんだ、父さん。僕が欲しいものはね、欲しいものはね……」 俺は心の中で絶叫した。苦しいほどに叫んだ。 主人公「父さぁ〜ん!!」 サーラ「!!」 俺は大量の脂汗をかきながら絶叫してしまった。かなりもがき苦しんでいたように傍目に見えたのかもしれない。気づいてみれば、目の前には困ったような表情を浮かべている師匠の顔がある。 サーラ「ひどいです」 ……確かに、うら若き乙女に向かって「父さ〜ん!」と叫んだのはまずかったもしれない。せめて、「母さ〜ん!」か「姉さ〜ん!」の方が良かったのかもしれない。そういえば「妹〜!」とはいわないよなぁ……って、普通は名前で叫ぶのか。 それにしても妙に落ち着いている自分に気がつく。記憶の断片を思い出した喜びのせいだろうか? あまり良い記憶ではないようだが……。 サーラ「また、独りに……独りぼっちになったのかと思った……」 主人公「……ごめん」 こんな時になんてくだらない事を考えていたのかと、後悔した。師匠はそんなことでひどいといった訳ではない。 サーラ「そんなに記憶を取り戻す事で苦しむなら……、記憶なんかないままの方がいい。だって、記憶なんていい事ばかりじゃないでしょう……そんなの忘れたままで……いい」 主人公「……」 サーラ「そんな記憶、あったって苦しむだけ……そう、苦しむだけ……」 主人公「……」 師匠は小さな肩を震わせて泣いている。そして叫んでいる、弱々しく、一生懸命、心の底から……。 師匠の記憶がどんなものかは想像がつかない。だがそれは確実に彼女を苦しめている。  記憶が消えるならば消してしまいたい師匠……そして、記憶を出来るだけ早く取り戻したい俺……。 だが俺達には、そんな感傷に浸りきる長い時間はなかった。俺達は熱い炎を感じた。心の熱い昂ぶりではなく、ただ熱く焼き尽くす無慈悲で純粋な炎を。そして、その中に佇む金属製の厳つい全身鎧を纏った人。その鎧は夜の闇と青白い月の光と赤い炎の揺らめきを反射させ妖しい色を放って輝いている。そいつは無言でこっちを見ている。  いつのまにやら、炎の精霊に囲まれてしまっていた。その大将があの鎧なのだろうか。 鎧の大将は腕をこちらに向かってかざす。その意を汲み取ったのか、炎の精霊達はこちらに向かってくる。 主人公「今は、泣く時じゃない」 その場に崩れ落ち座り込んでいる師匠の手を握り助け起こす。力なく立ち上がり、俺を見て、コクッとうなずく師匠。 そう、今は泣くときでも悲しむときでもない、戦うとき。   戦闘7 精霊使いLV15 1 サラマンダーLV8 5 ケルベロスLV10 5 レッドアイLV12 2 勝利条件 精霊使いLV15を倒す 敗北条件 主人公、サーラの二人共倒される。 戦闘7 敗北  だめだ。もう立つ気力さえない。しかし無情にも、鎧の男がこちらに止めを刺そうと歩み寄ってくるのが金属の擦れる音だけで分かる。  その足音がふと止まる。  鎧の男「そんな、まさか。こんなはずでは……」  俺は自分の耳を疑った。薄れ行く意識のせいかもしれない。鎧の男の声がか細い少女の 声のように聞こえた。そういえば、鎧の中身は確認していない。だから、男か女か、そもそも人間なのかは分からない。だが、聞こえてきたのは確かに……。 鎧の少女「……ひどい。運命ってひどい」 消え行く意識があるうちに聞こえたのは、少女の涙まじりの呟きだった。 鎧の少女「……私達、戦わなければならないの?」 視界が真っ暗になり、俺は完全に意識を失う……。 だが、どうも向こうの世界に嫌われているらしく、昨夜の戦いと同じ場所で目が覚める。正確に言うと例の遺跡の入り口付近なのだが……。 傷の痛みに耐えつつ辺りを見てみると、すぐ側に師匠が仰向けでボロ雑きんのように倒れている。胸が上下しているので生きているのが分かる。しかも丁寧な事に、傷の手当ても施されている。昨日の少女が施してくれたのだろうか? これだけ痛めつけておいた後にわざわざこんなことをするなら、はじめからそんなことするなと思う。しかし、何故彼女は手当てをしてくれたのだろうか。ただの気まぐれではなく、何か理由があるのだろうか。残念ながら、俺に思い当たる節はないが、師匠の方はどうなのだろうか。 師匠は、まだ寝ている。昨夜の事もあるので、充分に寝かせてあげようと思う。あの少女?について聞くのは起きてからでいいと思う。 それにしても、傍らでかわいい寝息を立てながら、あどけない寝顔を浮かべている女の子をこれからも相変わらず師匠と呼べるのだろうか……ちょっと自信がない。 戦闘7 勝利 目の前に傷を負っている鎧の男がいる。その男と目が合った。厳つい兜の隙間から一瞬だけだったが、その目は明らかに悲しそうだった。何処となく泣いているようにも感じられる。男は苦しそうな息遣いの後、うめくように呟く。 鎧の男「母さん……ごめん」 俺は耳を疑った。その声は、外見から想像されるものとは全く違う、か細い少女の涙まじりのものだったからだ。よりによって、そんな声を出されては止めを止そうにも出来なくなってしまう……いや、待てよ。そういう作戦なのかもしれない。止めを止す前に相手の正体を確認しよう。止めを止すのはそれからでも遅くない。 俺は鎧の男に歩み寄り、兜を取ろうとする。 サーラ「いっ、今更、何を言うの!?」  鎧の少女「!!」  突然、師匠は叫ぶ。その声に驚き俺は師匠の方に振り返る。師匠は、何かを堪えて必死に声を出している……そんな感じがする。 サーラ「あなた方が私達にした事は決して許されない……」 師匠はその場に崩れ落ち、顔を両手で覆って泣き出す。俺には何故かは全く分からないが、師匠は今の今迄心の傷の痛みに耐えていたのだろうか……。 鎧の少女「あっ、えっ……うぅ……」 一方、鎧の少女も何故か泣き出す。静かな月夜に滝の音と二人の少女の啜り泣きだけが聞こえる。 鎧の少女「もう、いやぁ……ううっ」 そう言い残すと、鎧の少女は後ずさって逃げ出す。俺はそれを呆然と見送る。こんな状況では流石に追いかける気は失せる。 師匠とあの少女の間には何の関係があるのだろう。きっと深い因縁めいたものがあるに違いない。詳しい話を聞こうと、俺は未だ泣き崩れている師匠に歩み寄る。 しかし、聞けない……聞ける訳がない……こんな子供のようにただただ泣きじゃくる女の子に対して……今、聞くべきではない。これは恐らく、彼女の消してしまいたい記憶に関わる事なのだろう。聞くということは彼女の心の傷に直に触れるという事だ。俺にはそんな大それたことは出来ない。 師匠は、泣いている。ひたすら、泣いている。俺はそれをただ見ている。だが師匠は、そのうち疲れが出たのか、眠ってしまったようだ。俺は、ぐったりしている師匠を抱えあげ、遺跡の入り口の囲いの陰に寝かせる。 師匠の涙の跡が残っているあどけない寝顔を見て思う。心と体の均衡がなっていない子供……これが俺の師匠。そんな人をこれからも相変わらず師匠と呼べるのだろうか……かなり自信がない。 ふと空を見上げると、優しく冷たく切ない月の光が目に入る……。 第7話 壊れ易いもの あの遺跡から1日半ほど歩いていくと、シャトラナザムの長い城壁と大きな門が見えてくる。やっとここまで来たのだ。思えば長い旅だった。 そして、あの夜の一件以来、師匠とはあまり口を利いていない。何を話しても師匠の心の傷に触れてしまうような気がするからだ。 これからも師匠と一緒に旅を続けていくのが辛い。いっそ、記憶を取り戻したふりして別れようかとも思った。しかし、このまま放っておけないのも事実である。俺達には確かな敵がいる。正体不明の敵が……。 昼間なので門は開いている。門は自由通行らしく俺達が通っても変に怪しまれるようなことはない。俺達以外の通行人も門を自由に行き交っている。しばらく道なりに歩いていくと、この街の目抜き通りらしき場所に出る。そこは今まで見た事もないほどの賑やかさである。通りの脇に数え切れないほどの屋台が立ち並び辺りにいい匂いを漂わせ、国籍不明の大道芸人達が楽しげな芸を披露している。そして、それらに群がる人々。ここにいる人々にとってこれが日常ということになるのだろう。 とりあえず、道の脇にある階段に腰を下ろし、一休みする。そして俺は近くの屋台でこんがり焼けたとうもろこしを二本買ってくる。一本は師匠の分である。 主人公「師匠、どうぞ」 サーラ「……」 師匠は、無言でとうもろこしをかじっている。俺もとうもろこしをかじる。塩とバターが焼き立ての香ばしい匂いとシャクシャクとした歯ごたえに良く合っていて、かなりうまい……。 主人公「ああっ、師匠、凄いです、あの芸人! あんな真ん丸の大玉の上で逆立ちしてますよ! いやぁ、凄いなぁ!」 サーラ「……」 俺は玉乗りの大道芸人を指して、師匠の反応を試したが、特に何の反応もなかった。子供をあやす訳ではないので、これは師匠に対してちょっと失礼だったかもしれない。さっさと、話を本題に振った方が良いのかもしれん。 主人公「……で、魔法研究所って所に行くんですね?」 サーラ「……」 とうもろこしをかじりながら、コクッとうなずく師匠。相変わらず無言だ……。少しでも口を開いてしまったら、あの月夜の晩の様に泣き出してしまうのだろうか。その辺の事情がよく分からない俺は一体どうしたら良いのだろうか……とりあえず、魔法研究所の場所だけでも確認しておこう。俺はその辺を通りがかっている町の人に場所を聞いてみる。すると、町外れにある古びた塔が件の場所であることが分かる。町の人に礼を言い、師匠の所に戻ろうと急いで後ろに振りかえると、そのすぐ目の前に師匠がいる。ちょっと、驚いた。  主人公「しっ、師匠。どうしたんです?」 サーラ「あっ……えっと……もう一本、食べても良いですか?」  主人公「……はい、買ってきます」 師匠が無言だったのは、単に腹が減っていただけなのか……。何だか、心配して損した気がする。しかし、何だか今まで通りに旅が出来そうな雰囲気に戻ったのは良かったと思う。さっきと同じ屋台でとうもろこしを二本買ってくる。一本を師匠に手渡し、食べ終わってから、魔法研究所に向かった。 歩いてからしばらくして、五階建ての古びた塔が見えてくる。辺りは街の賑やかなイメージは微塵もなく、人気がまったくといって良いほどない。いかにも魔法使いが怪しい研究をしていそうな塔である。 俺達はさっさと魔法研究所の塔に入ろうとすると、見知らぬ年老いた老人に止められる。塔の側に管理小屋のような建物があるので、恐らくこの老人が塔の管理人であるらしい事が分かる。 管理人「だ〜めじゃよ。許可が無いものを中に入れる訳にはいかんよ」 サーラ「……これを見ていただけますか?」 管理人「……おおっ、これはテューラ殿の巻き物じゃなぁ……滲んではいるが、印は本物じゃな……んっ、入っても良いぞ、何もないじゃろうが」 主人公「……!? どういうことだ、じいさん!?」 管理人「あん? 何も知らんのか? ここには誰も……正確には魔法使いなんぞ一人もいないということじゃ」 主人公「えっ!?」 管理人「その手の知識を持っている学者はおっても魔法なんていう怪しげな術を使う奴はいないってこと。で、その学者達も塔の老朽化のせいで立ち入り禁止になってからは誰も立ち寄らなくなった。今ではただの廃虚という訳じゃ」 主人公「……じゃあ、入っちゃまずいんでは?」 管理人「暴れなけりゃ、大丈夫じゃよ。現にわしも掃除をしに入ることもあるくらいじゃし」 主人公「そういうもんかねぇ?」 サーラ「……入りましょう」 管理人「まあ、あんまり長居はするな」 師匠と俺は古びた塔に入っていく。中はさっきの年老いた管理人が掃除したせいか、かなりきれいに片付いている。しかし、そう見えるのもそのはず、本棚のほとんどはがら空きだったからだ。どうやら、学者連中に持っていかれたのだろう。残っている本もあまり大した物ではなかった。二階、三階、四階、そして最上階。全てを漁るように調べてみたが、これといって重要な情報がある様には思えなかった……。 サーラ「……」 主人公「……」 本棚の書物も、戸棚の巻き物も全て調べた。もう一度、さらにもう一度徹底的に調べてみるが、結局、何も見つからなかった。気づいてみれば、日も暮れていた。 盗賊や魔物に襲われ、川に落ちたり砂漠に迷ったりして何とかここまで来たというのに、最後はあっけないものだった。これが、旅の終わり……。 主人公「……師匠、どうする?」 サーラ「……」 師匠はがっくりと肩を落とし床に手を着いてうなだれている。また、泣き出してしまうのではないかと心配になってくる……ん? そういえば……。 主人公「師匠、この間の精霊使いを探してみないか!? そうすれば、何か分かる可能性はあるんじゃないか!?」 サーラ「……」 言わなくても分かる事なのだが、つい口に出してしまった。余計な事を言ってしまった……と俺は思った。 サーラ「本当は……」 師匠が何かを言いかけた時、不意に同じ階の何処からか物音がする。俺はそっちの方に意識を集中する。この感じは精霊だ。しかも数体いるのが分かる。何故、こんな所にといいたいが、俺達には戦いを避けられない敵がいる。きっと、この精霊はそいつの手下なのだ。 精霊にはこの世界に12魔導師により封じられたものと狂ってしまったもの、そして精霊使いに操られたものがいる。ここに精霊が現れたという事はつまり近くに術者がいるという事になる。そう、またあの鎧の少女に会えるということなのだ。 主人公「師匠、敵の方から仕掛けてくるなんてついているよな……」 サーラ「……ゆっ、床が、崩れそうですけどぉ……」  主人公「!!」   この古びた塔の中で戦うのは流石に危険だ。脱出を優先した方が良いのは明白だ。現に既に床が崩れ落ちてしまった所もある。さらに悪い事に、盗難防止の為か、この塔には全く窓が無いのだった。つまり、急いで階段を下りるしかないのだ。 主人公「前言撤回……ついてない」 サーラ「……」   戦闘8 ロックLV8 8 ノームLV10 6 ドリアードLV10 3 サキュバスLV10 3 勝利条件 二人共、階段のある所までに6ターン以内で辿り着く。 敗北条件 7ターン経つか、 主人公、サーラのどちらかが倒される。 戦闘8 敗北(ゲームオーバー3) サーラ「きゃぁーー!!」 主人公「まっ、間に合わな……ぐあっ!」 俺達は、塔の崩壊に巻き込まれてしまった……。それは、あっけない旅の幕切れ。 そして、死の世界への旅立ち……。 戦闘8 勝利 俺達二人は何とか階段まで辿り着くことが出来た。ところが、まだ四階分の階段がある。この分では到底一階まで間に合うかどうか怪しいが、生きるためには階段を下りるしかない。 俺達は死にもの狂いで階段を駆け下りて行く。幸い、敵自体は五階にしかいなかったようで、途中で邪魔されるようなことはなかった。その為か、逃げることに若干の余裕が出来、階段を下りつつも周囲に気を配ることが出来た。俺はふと崩れかかっている壁の奥に今までに見たことの無い本棚のある部屋を見つける。この塔には隠し部屋があったのだ。とはいえ、今この部屋を調べるのは流石に無理だろう。塔が崩れ落ちた後で調べれば、もしかすると何らかの手がかりを得られるかもしれない。 二人が一階のロビーを駆け抜け塔の入り口を出た所で、後ろを振り向き塔を見てみると、塔は一階の入り口付近だけを残して完全に崩壊していた。崩壊してしまった塔の前に管理人が呆然と立ち尽くしていた。 管理人「あぁ、ついに崩れちまったよ。あんたら、何をしでかしたんじゃ?」 主人公「えっ、いやぁ……」 管理人「……まぁ、どうせ取り壊す予定じゃったし、手間が省けたかな……」 サーラ「……」 管理人「……とりあえず、街の役人に説明せんといかんな……あんたらも付き合ってもらうぞ!」 というわけで、塔の崩壊後は役所に行って夜通しコッテリ絞られた。が、朝になったらなんとお咎めなしで帰ることが出来た。テューラ様の知り合いということで何とかなったようだ。テューラ様の巻き物がなかったら、下手をすればこのまま監獄行きだったかも知れない……あの世のテューラ様に感謝する。 第8話 孤独の傷痕 お役所でコッテリ絞られた日の朝、塔の管理小屋で俺達は休んでいる。ひと寝してから、昨日まで塔だった瓦礫の山を探すつもりだ。例の隠し部屋のことも気になる。 主人公「ふわぁ〜。良く寝た!」 管理人「よくもそんなこと言いおるわい! わしはこれで管理人の職を解かれるんじゃからな、ったく! おまんま食い上げじゃわい!」 主人公「すいません」 管理人「……まあ、いいがね。ところで瓦礫を漁るんじゃなかったのか? もう昼過ぎじゃぞ」 主人公「あぁ、そうだった」 まだ寝ている師匠を放っておいて、管理小屋を出て早速塔だった瓦礫の調査を開始する。塔が崩れたので野次馬がいるかと思ったが、幸い他に人は見当たらないので何の気兼ねもなく作業が出来る。俺は例の隠し部屋があった辺りの瓦礫を漁る。隠し部屋は四階から三階の間にあったので、そんなに深く埋もれてはいないはずだ。案の定しばらくして、昨日の調査で見つからなかった書物が何冊か出てくる。その書物を手に取り片っ端から調べてみる。 主人公「!!」 ある一冊の本を調べて、俺は狂喜した。その本には12魔導師の研究施設の場所が書かれていたからだ。次の目的地はここに決定だ。しかもあの12魔導師の研究施設である。恐らく「緩やかな滅び」や「次元門」の謎も一気に全てが分かりそうな気がする。 だが、本当にそれで良いのかと俺は思った。俺の記憶はさっぱり戻ってない。そして、師匠ともそれでお別れなのかもしれない。なんとなく寂しさを感じる。 さらに別の書物には12魔導師のことが書かれていた。 12魔導師、それは魔道研究の頂点に立つ指導者達。彼らの研究は魔道だけではなく自然・生物・物理・哲学など多岐にわたる分野にも手を広げて行った。そして、それはこの世界自体を活性化させ、人類を繁栄に導いたと、この本には書かれている。ひょっとするとその子孫の師匠はただ者ではないのかもしれない。いつもはあんなだが、いざとなると凄いのかもしれない。しかし、12魔導師の研究施設についてしまえば、その凄さを見ることもないのだろう。どう凄いのだろうか……気になるといえば気になる。 さらに日が暮れるまで一応捜索してみたが、これ以上めぼしいものは見つからなかった。だが、充分な収穫はあった。 管理小屋に戻ってみると師匠はまだ寝ているようだ。管理人のじいさんもうとうとしていた様だが、俺が管理小屋の戸を開けた音で目を覚ました。 管理人「おや、お帰りかい。どうじゃったね?」 主人公「収穫はありました」 管理人「そうか、それは良かった。……あぁ、飯の支度でもするかのぉ」 主人公「いや、待ってくれ。俺がやるよ」 管理人「…そうか、じゃあ、頼むとしようかのぉ」 管理小屋の倉庫には一人分どころではない食料がある。適当にめぼしいものを拾い上げ、早速台所に立ち、素早く料理を作り始める。我ながら、慣れたものだと思う。もしかすると、俺は料理人だったのかもしれない。伝説の食材を求めメルニカ山地を旅する途中で事故って記憶喪失。そんなことはないなと思っているうちに、目の前には豪華な……ここ一週間の食事に比べて……が並んでいる。やはり、俺は料理人だったのかも……。 管理人のじいさんが待つ食卓に料理を並べる。じいさんは全てが並ぶのを待っているようだ。そういえば、師匠が未だ寝ているようなので起こした方がいいのではと思ったが、匂いで自動的に起きるような気もしたので放っておいた。 食事の準備は終わった。俺は食卓の横の椅子に腰を掛ける。 管理人「久しぶりじゃよ。人に食事を作ってもらうのは。死んだ婆さん以来じゃ」 主人公「俺もまともに作るのは久しぶりだ」 管理人「ところで、彼女は起こさんで良いのか?」 主人公「いや、彼女じゃなくて魔法使いとその弟子という関係です」 管理人「そうか……じゃったら、まだ寝ているあの弟子が食事を作るべきじゃあないのかね?」 主人公「いや、俺が弟子です。あっちが師匠です」 管理人「……どの道、起こした方が良いんじゃないのか? 腹は減っているだろうに」  しかし、やはりその必要は無かった。  サーラ「……いい匂い」  管理人「おお、こっちに座りなさい」  サーラ「はい。丁度、お腹が空いていました」  管理人「さて、食べるとしようかのぉ」  主人公「ああ、ジャンジャン食ってくれ」 昨日まで知らなかったじいさんと、良く分からない関係の若い男女の三人が一緒に食卓を囲んでいる。奇妙な取り合わせだが、何も知らない誰かがこの光景を目にしたらきっと家族で食事を取っているように見えるのだろうか……。 他愛の無い話に花を咲かせ、疲れて寝るという本来なら普通の一日が過ぎて行く……。 その夜、俺は奇妙な夢を見る。いつもと感じの違う夢。セピア調の色褪せた夢。 見たことの無い部屋にいる。豪華な部屋だ。置いてある調度品からその価値がわかる。辺りをキョロキョロと見回していると、扉をノックする音が聞こえ、年老いた女性の声で呼ばれる。 「お嬢様、食堂で旦那様と奥様がお呼びですよ」 ……そうか、私はお嬢様だったのか。それにしても今更何の用事だろう。いままで両親に対して良い思いの無かった私は、しぶしぶと両親のいる食堂に向かう。そして、その重々しい扉をノックする。特に返事はないので、黙ってノブをひねって押し開ける。扉はその外見に感じられるほど重くはなく、あっさりと開く。 「……お誕生日、おめでとう!」 「おめでとうございます!」 両親と屋敷の使用人達がいっせいに口々に「おめでとう」という。いままでこんなことはなかったのにどういう風の吹き回しなのだろう。無言でいつもの席に座ろうとすると見たことの無い両親はすぐさま駆け寄ってきて、私の頭を撫で回したり、抱えあげて振り回したり、抱きしめたりする。肉親ならではの温かさを充分に感じた。私もまんざらでもなくなってきて、嬉しくなって何か熱いものが体にこみあげてくる。 「パパ、ママ、みんな、ありがとう!!」 今までに無い気持ちだった。私は愛されている……そんな気持ち。嬉しかった。でも何で今更なのか? 今日の今日まで無視され続けていたようなのに、何故? そう思ったが、口には出せなかった。嬉しかったから……このままでいたかったから……。 これから、そんな気持ちで過ごせるのかと思うと明日も楽しくなってくる。次の日も、その次の日も、ずっと……。 でも、そうじゃなかった。 次の日、屋敷は炎に包まれていた。私は炎の中を無我夢中で逃げた。ふと立ち止まって横を見てみると、怪物達が使用人達を容赦なく殺している。「パパ、ママ!」と叫びつつ炎の中を逃げた。ひたすら逃げた。 ふと、立ち止まると、何処からか風が吹き、目の前の炎が揺らめいた。その炎の揺らめきの奥で、炎とは逆に冷たい感じのする人間か怪物か分からない男が、昨日パパと呼んだ男を角のようなもので刺し殺していた。そしてもうそれとしか言いようの無いものを振り回していた。私は声にならない悲鳴を上げて別の方角に逃げた。 しばらくすると、黒くすすけて汚れた若い女性が近づいてきた。昨日、ママと呼んだ女性だ。 「もう、あなたは私達の子供ではないの。そして、誰の子供でもないの。早く、ここからお逃げなさい」 ママは涙混じりの声でそういった。私は後ずさって別の方角へ走って行った。ふと後ろを振り返ると、ママはパパを殺した化物に背中を後ろから串刺しにされていた。口から炎よりも赤くどす黒い液体を吹いていた。私は一目散に逃げ出した。逃げて逃げまくった。だが、何かにぶつかってしまった。それは幼い私にはただ恐怖としか形容の出来ない厳つい鎧武者だった。私は腰を抜かした。その鎧は私めがけて拳を振り上げる。私は観念して、目を閉じた。ちょっとした鈍い痛みを感じて、意識を失った……。  「結局、私は独りぼっち……」 目が覚めると、まだ夜中だった。俺は床から飛び起きる。動悸が激しい。呼吸が乱れている。脂汗をだらだらかいていた。一体何の夢だったというんだろう。思いだそうにも思い出せない訳の分からない夢としが言いようが無かった。 とりあえず、落ち着く努力をしようと、目を瞑って呼吸を整える。すると耳に誰かがすすり泣く声が入ってくる。その声の方向には師匠がベッドの上で横向きでうずくまるように寝ている。師匠は寝ながら泣いているのだろうか。ひどい夢でも見ているのだろうか? 黙って、はだけた寝間着を直し、毛布を掛け直してあげる。ついでに泣きっ面を見てやろうと思い、顔を覗き込もうとすると師匠は体を動かしうまい具合にうつ伏せになってしまう。もしかして起きていたのでは……野暮なことをした自分を恥じた。俺は大人しく床の毛布に包まって眠ることにする。 その日の朝、管理人のじいさんに別れを告げ、12魔導師の研究所に向かう。結局じいさんの名前は聞かなかったが、それで良かったと思う。もし聞いてしまったら、別れが辛くなるような気もするし、俺達がもう家族のように食卓を囲むなんてことは二度とないような気もしたからだ…。 シャトラナザムを離れて、半日が経つ。向かっているのは、マージャフ山の遥か向こうにあるらしい12魔導師の研究所。しかもその途中にはいくつかの難所があるのだろう。 それでも、俺達はそこに行かなければならない。このままでは終われない運命みたいなものを感じる。あのままあの管理小屋にいて安穏と暮らせたらどんなに良いことだろうと思う。しかし、そうもいかない確かな根拠がある。 ジン「ほほう、塔の崩壊から逃げおおせたのか! だが、人間よここまでだ。我が主、ウォーボロス様の命により、貴様らをここで仕留める!」 不意に現れた精霊達。その中で一番強そうな奴がそう言った。ウォーボロス? 聞いたことの無い名前だが、それは恐らく俺達の当面の敵の名前に違いない。 主人公「望む所! かかってきな!」   戦闘9 ノームLV10 4 トレントLV10 4 シルフLV10 8 ロックLV10 6 ワルキューレLV12 4 ジンLV18 1 勝利条件 敵全滅。 敗北条件 主人公、サーラの二人共倒される。 戦闘9 敗北 戦闘6敗北と同じ 戦闘9 勝利 周囲に敵意のある精霊の気配は無くなった。これまでに幾度となく戦いを切り抜けた為か、二人共あまり疲労はしなかった。これぐらいでいちいち疲れていてはこれからが思いやられる。 サーラ「……強くなりましたね」 主人公「……師匠、もしかして誉めてくれたん?」 サーラ「もしかしなくても、誉めたんです」 主人公「免許皆伝ですか?」 サーラ「免許なんてありません。なんなら、作りますけど」 主人公「いらんです」 サーラ「特製ですのに……」 もし本当にそんな事したら、それで師弟関係は終わってしまう。それで良いのか、師匠。 他愛の無い冗談だと分かっているのに、要らんことを考えてしまった……。 第9話 深遠なる谷間 マージャフ山の麓を抜けてから、三日ほど経つ。ここからはしばらく険しい山道を行くことになるだろう。既に遠くを見渡してもシャトラナザムを見ることは出来ない。これから先は人の多い大きな街はない。せいぜい村や集落がいくつかあるぐらいだ。 それにしてもとんだ長旅になったものだと思う。最初はテューラ様の屋敷を訪ねるぐらいで済んだかもしれないのだが、今ではこの有り様である。行き着く所まで行くしかないのか……。 もし、メルニカの森で何事もなく暮らしていたらどうだっただろう。そのうちに記憶を取り戻して本来の生活に戻って平凡に暮らしたかもしれない。また、戻ったとしても森でこれまで通りに生活していくかもしれない……。結局、こんな長い旅をすることはなかったかもしれない。 サーラ「考え事ですか?」 主人公「ああ」 師匠の問いにただ返事をした。記憶が戻ったらどうなるんだろうということを言いそうになったが我慢する。そんな事を言って師匠を泣かすのは面倒だ。 師匠は記憶を消したいらしい。それは辛い記憶なのだろう。どんなものかは未だに分からない。「緩やかな滅び」と何か関係があるのかもしれない。師匠の家族に関係しているかもしれない。あまりに情報が少な過ぎるし、当の本人に聞く訳にもいかない。 サーラ「どうしたんです? 私をジロジロ見るなんて……」 主人公「ああ、失礼。深い意味はないんだ……」 考え事が師匠のことになった為か無意識に見てしまっていたらしい。一応、師匠も年頃の女性なのでジロジロ見られるのは嫌なのだろう。それにしても、よくもまあその華奢な体で倒れずに歩いているものだと感心する。心と違って体は案外頑丈なのだろうか。 サーラ「……まだ、見てます」 主人公「ああ、師匠は元気だなぁ……と思って」 サーラ「そういうあなたはどうなんです?」 主人公「ああ、元気だよ」 サーラ「そうですか……」 あまり意味の無い会話を続けるぐらいなら、いっそ思い切って突っ込んでみようかと思ったが、それは12魔導師の研究所に着くまで取っておくことにしよう。 それはさておき、俺の記憶は一体、いつになったら戻るのだろうか……。メルニカの森を出発して一月近く経つというのに、戻ったのは記憶の断片のみ。 俺には父親、正確に言えば父親だといえる人物がいる。そしてその人物は学者であるらしく、何処かの研究所にいる。だが、そこでの俺は生暖かい液体で満たされた容器の中から父親を呼んでいた……。本当にあれが父親なんだろうか? 学者の中には研究の為なら肉親でさえも実験材料にする者もいるという。俺は父親に実験材料にされ、事故で記憶を失ったというのだろうか? そして、メルニカ山に迷い込んだとか……。辻褄は合うが、如何せん証拠が無い。こう考えてみると、片っ端から研究所らしい施設を回ってみるのは正しいことのように思えてくる。 サーラ「やっぱり、元気ないですよ」 主人公「ああ」 確かに師匠の言う通りだ。記憶が戻った所で、今の段階では悲しくて残酷な現実が待っているようにしか思えない。身に覚えの無い罪で死刑を宣告された犯罪者のようなものだ。当然気が重いし、それが顔に出るのも無理はない。 サーラ「少し、休みましょう」 主人公「ああ」 二人が立ち止まったのは、底が見えない深い谷に沿って続いている小道のちょっとだけ開けた場所である。開けているとは言っても申し訳程度というべきか。さらに右を向けば、落ちたらまず助からなさそうな谷間があり、左を向けば、いつ崩れるか分からない断崖絶壁である。つまり、休むのにはあんまり良い場所ではないということだ。しかし、他に場所も無いので、とりあえず崖沿いの岩に腰を掛ける。 サーラ「深い谷ですね」 主人公「ああ。何も見えないぐらいにね」 サーラ「きっと、川があるんでしょうね」 主人公「その川がこの深い谷を作ったんだろうな」 サーラ「本当に川はあるんでしょうか?」 主人公「どうだろう。とうの昔に川は枯れていたのかも」 サーラ「降りてみないと分からないでしょうね」 主人公「そんな事したら、死んじまうな」 サーラ「でも、もし降りてみてしかも無事だったら、きっと川は本当の姿をあなたに知ってもらいたかったのでしょう」 主人公「そうかなぁ……」 サーラ「きっと、そうですよ」 ……結局、何が言いたいんだ、師匠は? こんな谷の話なんかどうでも良いではないか……。それ以上話すこともなく、二人はただ暗い谷を見ている。吸い込まれそうなぐらい深い谷。落ちたら二度と日の目を見ることの出来なさそうな谷……。下ばかり見ているのもなんなので、今のうちに太陽の光を目に焼き付けておくことにする。空を見上げると、何も無い青い空が目に映る。暖かな日差しが気持ち良い。 主人公「師匠、俺、寝て良い?」 サーラ「ええ、どうぞ。顔色悪いですしね」 俺は崖のすぐ側に横になって眠りに落ちる……。 ……だんだんと今居る場所が見えてくる。何処かの山だろうとは思う。見たことがあるような気もする。……とりあえず、歩こう。だが、立ち上がることが出来ない。全身にひどい痛みを感じる。俺の体中にたくさんの新しい傷がある。高い所から転げ落ちたのだろうか。全身が土と埃で汚れている。死ぬかもしれない……。助けを呼ぼうとしても口が上手く動かない。 しかし、運良く助けは来た。足音が近づいてきて、すぐ側で止まる。 「死んでる……」 いや、未だ生きていると言いたいが、口が動かない。ああ、突っつくなっって! 生きてるってばさぁ……口が動かない。そのうちに体が動く……と言っても自発的にではなく、未だ良く見えない相手によってである。そいつは俺の腕を引っ張り始める。……お願いだから、引き摺らないで欲しいんですけど……口が動かない。すると、そいつはそれに気づいたのかどうかは分からないが、その小さな背中で俺をおぶり始める。身長差がある為か、足だけは引き摺られたままである。……あのぉ、俺をどうするつもりですかと口が未だに動かないにも関わらず話し掛けようとした瞬間、二人共倒れ込む。そいつは足元の石にでも躓いたのだろうか? 俺は目に砂が入ってしまい、目を開けることが出来なくなってしまった。そいつはまた俺を背負い込み歩き始める。例のごとく足は引き摺られる。 しばらくして、俺の体にぽつぽつと冷たい雫が当たり始める。そしてそれはすぐに大粒の雨になり、全身をずぶ濡れにする。でもそいつは俺を運びつづける……。 それからどれぐらいが経っただろうか。ふと気がつくと、何処かの小屋の中に居るようだ。俺はベッドに寝かされている。かろうじてぼやけながらも周囲を確認できるが、体の方は相変わらずで声を出すことが出来ない。 おぼろげながらそいつがこっちに近づいてくるのが分かる。そいつは何か得体の知れない匂いを放つ器を持って近づいてくる。やっ、やめてくれぇ……そんなもの食わすつもりか……口が動かない。 予感は当たらなくて良いのに当たった。そいつはその器の緑色の液体のようなものを木製のスプーンらしきものですくい、そのスプーンを俺の口にねじ込む。臭い、熱い、不味いと叫びたかった。当然口が動かないので、うまく飲み込めない。口からひどく苦い緑色の液体がだらだらと流れていく。 そいつは首をひねって考えていた。そして意を決したのか、そいつはスプーンを使って器の液体をそいつ自身の口に含み、顔をこっちに近づけてくる。まさかと思ったのも束の間、臭くて不味い液体と甘くて柔らかい感触を感じる……。 !! 不意に目が覚める。耳に入る爆発音……一体何処から……。周りを見ると、そばに居たはずの師匠が居ない。慌てて飛び起き、爆発音のした方に向かう。深い谷沿いの細い道を走っていくと、暗い谷を挟んで師匠と謎の少年が対峙しているのが見える。見たことの無い少年だ。いや、少年と言うよりは化物と言うべきか。その姿の半分は少年だが、もう半分は化物としか言いようの無いものだ。二つの生物が融合した姿とでも言えば良いのだろうか。 少年「あんた、死んでもらうよ。12魔導師の子孫であったことを不幸に思うんだな!」 サーラ「ウォーボロス! 父さんと母さんの敵、今ここで晴らします!」 主人公「師匠!!」 サーラ「!! 来ては行けない!!」 少年「むっ、おまえは!!」 俺は少年には目もくれず、師匠のもとに駆け寄る。 主人公「師匠、危ないって!」 サーラ「すいません。でも、体調が悪そうだったから……」 主人公「これとそれは別だろ!」 少年「くっくっくっ……あははははは……」  俺は少年の方を向く。   少年「まさに、一石二鳥とはこういう事をいうんだよ」 主人公「何を言っているんだ!?」 少年「12魔導師も根絶やしに出来るし、親の敵も討てる。お前らをここで葬れば、そういうことになる」 主人公「俺がおまえの親の敵? 何の話だ!? 訳分かんねえぞ!?」 少年「何も知らないのか!? ふざけるのも大概にしろ!」 言うや否や、巨大な火炎が飛んでくる。俺達はそれを何とか避けることが出来たが、今まで通って来た道が壊されてしまった。 主人公「ふざけてんのはどっちだ!」   戦闘10 ウォーボロスLV50 1 終了条件 ウォーボロスを倒す(無理だって)か、 主人公、サーラのどちらかが倒されるか、 15ターン経つ。 戦闘10 終了 ウォーボロス「茶番は終わりだ……死ね!」 巨大な火球が俺達が足場にしている崖に命中し脆くも崩れ落ちる。俺達は急な斜面を転がりながら暗い奈落の底に落ちていく……。ウォーボロスの渇いた笑い声が辺りに木霊する。俺は何とかうまく木にしがみつくことが出来たが、師匠はそのまま転げ落ちている。 主人公「師匠……サーラ!」 サーラ「!!」 まだ意識のある師匠の方に腕を伸ばす。しかし、あと少しで届かない。俺は思い切って木から離れ、師匠の方に飛び出す。ふれあう手と手、そして握り合う二人の手。絶対離さないぞと心に誓った。ここで彼女が居なくなってしまったら、俺の今ある全ての記憶はすべて悲しいものになってしまう。離さない……離すものか! だが、そこまでだった。結局二人共転げ落ちていく際に、手を捻ってしまい互いに手を離してしまう。 暗い闇の谷を何処までも転がり落ちていく二人……。 第10話 運命の糸 気が付くとそこは暗い河原だった。川は狭く深そうではあるが流れの方はあまり急ではない。上を見上げると切り立った崖の合間にほんの少しだけ空が見える。体中がかなり痛むが、何とか動けそうだ。よくもまあ、あんな所から落ちて助かったものである。谷を覆うように生えている木がクッションになったのだろうか。 主人公「師匠!!」 俺は辺りに師匠を探す。師匠は対岸の岸辺に倒れているのがすぐ見つかる。俺は慌てて川に飛び込み、泳いで向こう岸に渡る。体中の傷が染みるが今はそんなことを言っている場合ではない。師匠の無事を祈る。 かなりの疲労を感じつつも向こう岸に辿り着くとすぐに師匠を抱え起こす。 主人公「師匠……サーラ!?」 体を激しく揺らしてみるが、全く返事が無い。オアシスの時のようにとぼけているのではない。恐ろしいほど体中が冷えきっている。息もしていない……かなり水を飲んでしまっているのかもしれない。 ……冗談じゃない。何度も何度も危険な目に遭っても今までなんとかやってきたのに、こんなところで終わってしまうのか!? せっかく目的地も見つかり、これからって時に……起きろってば、師匠! 師匠の胸の下辺りを強く押してみる。何度も何度も押してみる。だが、一向に水を吐く気配が無い。 ……すこし考えてから、師匠の鼻を摘まんで、口から直接息を吹き込んでみる。ある意味、乙女の唇を奪う照れる行為ではあるものの、躊躇っている場合ではない。 「お願いだから、生きていてくれ」と念じつつ、ひたすら何度も息を吹き込む。何度も何度も吹き込む。だが、その行為は無駄のように思えた……駄目かもしれない。でも、止める訳にはいかない。 しばらくその行為を続ける。ひたすら続ける。延々と続ける。 運命なのだろうか? だとしたら、もうどうしようもないのだろうか……そう思った時、師匠の喉元にぐっという音がする。 サーラ「けほっ、けほっ」 主人公「!!」 俺は師匠の上体を起こし、背中をさする。師匠は苦しそうに水を吐く。どうやら助かったらしい。失われた体温も戻りつつあるようだ。 主人公「良かった……一時はどうなるかと思ったよ」 サーラ「あっ、有り難うございます……」 主人公「とりあえず、立てるかな? あそこに猟師小屋がある。そこで休もう。」 サーラ「それはちょっと……足を打ってしまったようなので歩けないです」  俺は黙って、師匠を背負って猟師小屋に歩いていく。